【前編】里山再生プロジェクト講演会「里山の恵みを未来につなぐ」開催レポート
2020/03/16
2020年2月11日(祝)、里山再生プロジェクト主催で「里山の恵みを未来につなぐ」公開講演会を開催しました。当日は前日の雪模様で足元が悪い中、市民や学生など約90名が来場し、和やかな雰囲気の中、生活に欠かせない「私たちの森」についての意見に熱心に耳を傾けました。
講演会の様子を前編と後編に分けてお届けします。
会場の様子
里山再生プロジェクト 公共財としての山の整備を
尚絅学院があるゆりが丘は、かつて人が常時入り炭を焼いたり、山菜を採ったりして人と共生する山、森でした。しかし団地が開発され、人々の暮らし向きも変わって山の利用はなくなり、30年以上放置され、野生動物が里の方まで下りてくるなど安全と景観が害されているのが現状です。大学周辺の山は尚絅学院の私的財産ではありますが、地域の人のためにも心が和むようなきれいな山をつくり、山を見て一日穏やかな心で過ごすことができるようにしたいと、2015年に「里山再生プロジェクト」をスタートさせました。2030年までに達成しようとしている国連が定めたSDGsには17の目標がありますが、その中にも森林を常に保全して守っていくというものがあります。
山は“公共財”であり、自然との共生のすばらしさを教えてくれる場所です。プロジェクトが始まって今年で5年目。一区切りとしての1年を進めていきたいと思います。
主催者挨拶:尚絅学院理事長 佐々木 公明
理想的な森林環境のために、森林整備や担い手づくりを
ご存知のように、日本は国土のほぼ6割が森林ですが、人工林も天然林も人手がなくて放置されているところが増えているのが現状です。人工林の整備を行っているところは、それなりに伐採、搬出ができる能力がある森林組合などが間伐や主伐と呼ばれる森林整備を行っています。以前であれば個人の所有者が自ら植えて簡単な間伐などをやっていましたが、時代が変わり、なかなか山に人が入らなくなって自ら手入れをしている人は少なくなっています。人工林については適切な手入れをしていかないと更新の機会が失われて災害の発生が懸念されます。
林業従事者が減り、森林整備が進まない大きな理由は、木材価格の下落で森林経営の意欲がなくなったことにあります。木材の利活用を進めることが課題であり、さらに国の方では、放置されている森林を管理するために新たに森林環境税、森林環境譲与税を創設しています。これらは森林整備、担い手づくりのための税と言えます。森林は最終的には植栽された木が適正に管理され伐採され、それを利用していくというバランスが循環していくことによって健全に維持されます。環境譲与税も木材利用や森林整備に充てていきましょうということで、バランスのとれたサイクルを上手く動かしていくことが林業の課題になっています。宮城県は全国に比べて人工林の割合が高く、「みんなの森林づくりプロジェクト」の活動や、市民団体やボランティアの人たちの活動によっても支えられています。森の里山化、税を上手に活用することで、未来の森林を守っていくことが望まれます。
基調講演:仙台地方振興事務所林業振興部技術次長 小泉 智 氏
食材が育つ豊かな環境をつくっていく
牡鹿半島でニホンジカの駆除をし、その肉を処理加工して販売しています。牡鹿半島は日本の縮図のようなところで、山には昔からシカが住んでいましたが、ここ20年くらい前から急に増え出しました。それを何とかできないかということで3年前に処理場を始め、全国から集まった意識の高い料理人たちと一緒に仕事をしています。状態の良い肉を保健所の指導のもと食肉にして、年間100トンくらいを北は北海道から南は長崎までレストランと直接取引をしています。正直、好きで始めた狩猟で楽しんでやっていたのが、いつの間にか仕事になってしまったという皮肉なところもありますが、シカが1頭も増えずに森で棲めるようになればいいなと思いながら活動してきました。
森そのものというのは、皆さんが考えている以上にとても豊穣です。人が気づかないだけでスパイスがあったりハーブがあったり、森林副産物がいっぱいある。でもそれは害獣と呼ばれる動物にとっても利用できるもので、生きるために人間との知恵の比べ合いという部分があります。確かにシカによる食害はありますが、我々も命をもらっているので、それはしかたのないことだと思っています。大事なのは、森は食材が育つ環境であること、動物も生きている場であることを知ることです。我々は仲間と一緒に森づくりをしています。子どもたちを山に連れて行って目を閉じさせてしばらくいると、それまで聞こえてこなかったものが聞こえてきたり、動物の気配を感じたり息遣いもわかってきます。花の香り、木の香り、樹液の香り、水の香り、土の香り、それらがわかってきます。そういったものがわかってくると身近な森が豊かな森に変わってきます。森づくりではその目線が大切だと思います。
パネルディスカッション:食猟師 小野寺 望 氏
放置されている間伐材を薪として活用するために
私たちは尚絅の森の可能性について、木を薪として利用できないかと考えました。森が抱えている問題として、森には放置されている間伐材が多くあり、それを薪として利用できれば一つの課題解決となります。そのために、住民の人たちはどれくらい薪ストーブを使っているのか、薪はどこから調達しているのか、ゆりが丘1丁目から5丁目の1624世帯を調査対象にして、その中で煙突のある家、薪が置いてある家34軒にアンケートを実施しました。その結果、実際に薪ストーブを使用している人は4軒で、薪の調達は自己保有の山林からが3軒、1軒が川崎のNPO法人「どんぐりの森」で自ら作業して入手するということでした。次は、薪の価格です。薪の購入者は宮城県にある3社からと川崎のNPO法人から入手しており、1束中に10本の薪が入っていた場合、1日の薪使用率は2束で、1カ月の使用量は約60束とすると、仙台薪屋さんでは29250円、送料1カ月分の合計は4380円、株式会社ディーエルディーさんでは25200円、送料は1シーズン約6000円、ホームセンターでは53700円、軽トラ1時間無料になっていて以降30分1000円となっています。NPO法人では1時間の労働を「1気持ち」という地域通貨で設定しており、1気持ちは約2束分の薪をもらえると考えると、約36時間の労働、送料は30キロ以内だと3000円、31キロ以上だと5000円、自ら持ち帰る場合は無料となっています。
尚絅の森の間伐材活用の今後の可能性についてですが、このアンケート結果から薪ストーブを利用している人たちの薪の入手先というのが、自ら山に入るという人が多かったので、川崎の活動を尚絅の森でもできるのではないかと考えました。森で活動してもらい、地域通貨として例えば「1里山」のようにして薪と交換することができるのではないかと。そうすることで、ゆりが丘地域の人たちと尚絅の森が近い関係になり、つながるのではないかと考えました。最後に薪ストーブを持っていても使っていない人への呼びかけとして、尚絅の大学祭などに参加していきただき、木材を山から下ろしたり薪を扱うのが難しいという高齢者には、そこで薪を交換するということを考えました。
パネルディスカッション:尚絅学院大学 東研究室ゼミ生